急いで行こうよ!



 朝、目を開けたら眼前に好きな人がいた。
 あまりの距離の近さにぎょっとする。反射的に身構えてから、昨夜なにが起きたか思い出した。
 そうだ、私、昨日ハンフリーさんと……。
 思い出して身体が熱くなる。
 昨日、はじめてのことにガチガチに固くなる私を、ハンフリーさんは優しく導いてくれた。緊張を取り除くようにキスをしてくれて、無理やり事を進めるようなことは決してしなかった。
 ハンフリーさんのあたたかい手がこわばって冷える身体を這い回る度、ぬくもりが気持ちよくて、私は……。
 はじめて繋がった時はもちろん怖かったし痛かったけど、ハンフリーさんが相手だと思えば我慢できた。むしろ満たされる思いだった。
 はぁ、なんかすごい。夢じゃないんだ。
 私とハンフリーさんは今日一夜を共にして、い、一線を超えてしまったんだ。
 思わず、まじまじとハンフリーさんの寝顔を見てしまう。
 ハンフリーさんは後悔してないかな。幻滅してないかな。私と同じように、満たされていれば嬉しいんだけど……。

 しばらくそうやってハンフリーさんの寝顔を観察してから、ハッと気づく。
 先に起きておかないと、子供たちやベロリンマンさんたちに勘付かれてしまうかもしれない。生々しい情事は、伏せておきたい。

 私は眠っているハンフリーさんを起こさないよう身をよじる。私を抱きしめる腕からぬけだした。
 ハンフリーさんはスヤスヤと寝ている。太い眉に彫りの深い顔立ち。目を閉じているから、普段の柔和な笑顔とは印象がちょっと違う。
 髪の毛を耳に寄せてあげると、こけた頬が目についた。色々苦労をしてきたことが、よくわかる。
 この人を支えたい。
 この人が抱えるものを、私も抱えたい。

「……好きだよ、ハンフリーさん」

 おでこにキスをしてから、すぐに身を離す。
 やだ、恥ずかしいことしちゃった。寝てる時じゃないとできないな。
 ベッドから降りて逃げようとした瞬間、後ろから腕を掴まれた。
 引きずり戻され、気がつけばハンフリーさんが目の前にいた。

「お兄ちゃん、とはもう呼んでくれないのか?」
「は、ハンフリーさん、起きてたの……!」

 あまりに恥ずかしすぎる。私を抱きしめようとする手から逃げたいのに、ハンフリーさんはそれを許してくれない。

「もう一回言ってくれよ、お兄ちゃんって」
「意地悪しないでくださいよ」
「敬語はやめろよな。それと質問に答えろって」
「もう。……貴方がやめろって言ったのに」

 昨日、気持ちが高鳴りすぎて『お兄ちゃん』と昔の呼び方をしてしまった私に苦笑したのは、ハンフリーさんの方だ。
 ──お兄ちゃん、って呼び方はやめろよな。妹に手を出してるみたいな……あ、いや、今まさに妹に手を出してるんだが……。
 しどろもどろになるハンフリーさんは正直可愛くて、愛しくて、同時に嬉しかった。

「お兄ちゃんって言われたこと自体は嬉しかったんだぞ。孤児院出てってから、お前、他人行儀な態度になったし……」
「だって、孤児院出たらもう他人になっちゃうと思ってたし、他人になりたかったから」

 孤児院の子供たち全員がそうであるように、私には孤児院以外に身寄りがない。
 でも孤児院が守ってくれるのは子供までだ。大人になれば卒業して、一人で生きて行かねばならない。そうなれば、孤児院の家族からは外れて他人になってしまう。
 それはとても寂しくて悲しいことだったけど、ハンフリーさんとの関係でいうなら決して悪いことではなかった。
 他人になれば、ハンフリーさんとも兄と妹でなくなるということだ。別に付き合いたいとか思っていたわけじゃないけれど、他人になれば恋心も合法的なものになる気がした。抱くだけで裏切りになるようなものでは、なくなると。

「オレはが応じてくれて嬉しかったし、好きだって言ってくれて嬉しかったよ」
「もう。そういうこと言わないで」
「なんだよ。大事なことだろ。オレにとっては、はもちろん妹だし、家族として好きだよ。でも女の子としても……が好きなんだ。だから無理に、他人とか恋人とか兄妹とかを線引きする必要はないと思うんだ」

 線引きする必要がない?
 ハンフリーさんはあっさりとそう言った。
 この人は……私が今まで、どれだけ悩んでいたかわかってないんだ。
 泣きそうになる。元々の寛大さが違うというか、何も気にしてないというか……。

「……私にとっても、ハンフリーさんは大切な兄です。でも同時に、男の人としてあなたを慕う気持ちがあって……私はそれを、ずっと家族への裏切りだと思ってました」
「うん」
「でもおなじようにハンフリーさんが私を妹と思ってくれて、同時に女として恋愛感情を抱いてくれるなら……」
「うん」
「この気持ちに……胸を張れそうです」

 ぎこちなく笑ってみせる。泣いたらきっと、迷惑だろう。
 ハンフリーさんも私に同じ愛情と恋心を持っていて、それは恥じることではない、と言ってくれるなら。
 私が胸を張らないと、ハンフリーさんまで日陰者になってしまう。
 ハンフリーさんが私を引き寄せる。私も身を寄せ、ごくごく自然にキスをした。
 触れるだけのキスは、すぐに深いものへと変わっていく。兄と妹の距離感では決してできない行為だ。

「ごめんな。昨日は無理させて」
「そんなこと。痛かったけど、最後のほうはそんなに悪いものじゃなかったっていうか……。もう、言わせないでよ」
「もし出来たら、責任取るから。ちゃんと」
「え? あ、あぁ……」

 それは──その言葉の意味は。

「順番が逆になるけどさ、オレ、真剣だから……」
「うん……ありがとう」

 ハンフリーさんの部屋に行った時点で私は覚悟していたし、応じてくれた時点でハンフリーさんも覚悟してるだろうと思っていたけど。
 こうして言葉にされると、安心感が違う。どうあっても私を守って、そばにいてくれる気なんだと感じる。
 嬉しくなって、ハンフリーさんの胸元にすり寄った。ハンフリーさんも肩を抱いてくれる。
 勇気を出してよかった。あそこで勇気を出して部屋に行くと言っていなければ、私はずっと膠着したまま、ハンフリーさんの優しさに甘えて逃げ続けていただろう。

「こうしてるとでろでろに溶けてだめになりそう。子供に戻っちゃう」
「戻っちゃえよ。お前に甘えられるの、好きだぜ、オレ」
「ハンフリーさんがよくても私がやだよ」
「照れ屋だなあ」

 流石に恥ずかしくなってきてハンフリーさんの腕をすり抜ける。身体を起こして、床に散乱したままになっていた寝間着を拾う。……昨日、色々必死過ぎて、たたむ発想がなかったんだよな。
 服を着ていると、ハンフリーさんがじっと私を見ていた。

「なに見てんですか、ヘンタイ」

 頬をぶにっとつまむんでみせるものの、効果がない。
 ハンフリーさんは本当ににこにこしている。

「やばい。オレ、いまものすごく幸せだ……」

 ハンフリーさんの言葉に、お腹の底から暖かな気持ちがこみ上げてきて、たまらない。私もにへっと笑ってしまった。

 だから私は、きっと忘れていたんだと思う。
 この世界は平和なように見えるけど、確実に以前とは一変している。
 妖魔軍王ブギーが倒され、町に平和が戻っても。
 確実に世界は変貌していたのだということを──私は忘れていたのだ。


   ***


 ハンフリーさんと相談して、私との関係はみんなには内緒にしておいてもらうことにした。
 別に隠す必要ないだろ、とハンフリーさんは言うけれど、そうはいかない。
 みんなは祝福してくれるはずだけど、正直恥ずかしい。それにハンフリーさんと私の関係が孤児院のみんなや街の人に周知されるということは、つまり、私とハンフリーさんが恋人同士だと思われるということで……。
 ハンフリーさんはくちびるをへのじにして難しい顔をする。

「いや、恋人同士……じゃないのかオレたちは」
「あぁあ、やめてください、ちょっと恐れ多すぎるから……」
「オレはお前の彼氏で、お前はオレの彼女だろー?」
「もーっだから、からかわないでくださいよっ」

 ニヤニヤしながら私に笑いかけて、くちびるを寄せてくるハンフリーさんから逃げる。

「しょうがないな。昔っから妙なとこ気にするよなぁ。そんなとこも好きだけど」

 絶対面白がってる。からかってくることに軽くむっとしつつも、立場が弱いのは私のほうなので黙り込む。

「……とにかく、内緒でお願いします、内緒で」
「うん。お前がそうしてほしいんならそうするよ」

 ひとしきりからかったあとで、ちゃんとこちらの意を尊重してくれるハンフリーさんは実にいい人だと思う。
 その実にいい人が私の兄で、恋人だと思うと、身に余る光栄というか……私には出来すぎた人なので、顔が熱くなってしまう。
 ちょっとずつ今の関係になれていかないと、泡を吹いて死んでしまいそうだ。

 それからは、表向きいつも通りの関係を装った。
 私は夜の仕事を探すのをやめて昼の仕事を取り付けた。レストランの給仕係は賃金は少ないけどその分シフトに融通が利いて、店長も穏やかで優しい人だ。
 昼の仕事が決まったと言うとハンフリーさんは心底ほっとしたように笑った。
 夜は悪夢を見るけれど、今は頻度も少ないしさほど生活に支障は出なくなった。ハンフリーさんと「そういう」関係になり、なんとなく気分が落ち着いたことも要因だと思う。
 とはいえ。いままで通りの関係を装っているつもりでも、なんとなく変化が表に出てしまっているらしい。

「ハンフリーにいちゃんとおねえちゃんって、なんか雰囲気変わったね」
「へっ!?」
「わかるわかる。さいきん仲いいよね~」

 夕飯を作っていると、不意に子供たちがそう言った。食器を並べていたハンフリーさんがびくつき、私もお皿によそっていたビーフシチューをこぼしそうになってしまう。

「な、なに言ってんだよ。別に変わりないと思うけど。なあ」
「そうそう。強いて言うなら規則正しい生活するようになってから健康になったとは思うけど」
「あ、それはわかる。オレもうれしい。でもそれぐらいだよな~」
「ね~」

 慌ててごまかすものの、ごまかせている気がしない。子供たちはじーっと私たちを見つめているし、次兄は口に手を当ててくすくす笑いをこらえている。ベロリンマンさんはというと、私たちの同行に興味がないらしく、スプーンを持ってビーフシチューを待ち構えている。

「あやしーなーハンフリーにいちゃんとおねえちゃん……」
「もう。なに言ってるの。ほらほら、もうごはんだよ~」
「わーいっ!おねえちゃんの手料理だ~」

 子供たちがわっと沸き立った。長らく自炊しかしていなかったので、炊事係の子よりよほど下手だと思うんだけど。実際の料理の美味い下手よりも、誰と食べるかって話なんだろう。
 ひとりで食べる食事はどんなに豪華でも味気ないものだ。もちろん気楽なのでそれはそれで悪くないのだけど、家族みんなで食べる賑やかさは得難い楽しさがある。普段料理をしない人が作ってくれたものなら、なおさら格別なのだろう。
 最後の皿を持ってテーブルにつくと、ベロリンマンさんが首を傾げた。

「一人分多いベロン。おかわり用ベロか?」
「違います。……最近ごはんのつまみ食いが多いらしくて、備蓄がすぐ減るみたいなんですよね。わざと料理を大量に作る人がいたから、消費スピードが速いのは当然だと思ってたけど……にしたって作り置きの料理がなくなるのが早いんだよね」

 炊事係の子が、げっと表情をこわばらせた。気付かないふりをするように目をそらす。
 それ以上に居心地悪そうにしているのは、一番年下の妹だ。グロッタの街がブギーから解放されたあと、急に外でよく遊ぶようになった子。友達と遊んでいるわけでもなく、一人で外に行って遅くまで帰ってこない。それでいてご飯をよく残し、あとで食べると言って地下室に持っていく。
 明らかに不審だけど、孤児院のみんなは知らないふりをしてあげているのだ。
 ――私はそんなことしない。空気を読まずに切り込んでいく。

「別に怒る気はないんだよ。ただ、紹介してほしいだけ」
「で、でも……」

 まごついて指先をいじくりまわす妹はかわいい。
 困らせたくないし、おねだりされたらなんでも買ってあげちゃいたくなるし、隠したいことがあるなら隠したままにさせておいてあげたくなる。

「一緒にごはんたべたいな。あなたのともだちと。……それともそのともだちはそんなに悪い子なの? 私たちに紹介したくないぐらいに?」
「そんなこと! ……でも……」
「あ、でも悪い子は教会に入れないもんね。紹介したくても連れてこれないかぁ~」
「そんなことない!」

 妹は慌てて立ち上がる。ぶんぶんと首を振って私を睨んだ。ともだちをバカにされたと思ったのだろう。

「じゃあ紹介してくれるよね? わたしたちも一緒に遊びたいな! ね、ハンフリーさん」
「え? お、おう」
「……ハンフリーのお兄ちゃんが言うなら……。じゃあ、待ってて」

 妹はおずおずと言うと、地下室のほうへと歩いて行った。
 ちいさな背中が地下室の扉の向こうに消えたあと、ハンフリーさんが慌てて私の肩を揺らした。

「おいおい、どうすんだよ。そっとしといてやればいいだろ。孤児院に入れる時点で悪い魔物じゃないのはわかってんだからさ」
「そりゃそうでしょうけど。これで魔物への恐怖が抜けちゃって、悪い魔物に簡単についてくようになっちゃったらどうすんですか?」
「でも、隠したがってるんだから」
「隠してるつもりに付き合ってあげるのは、問題ない秘密のときだけですよ。孤児院にあげて問題ないんだったらなおさらオープンにしてあげるべきです。魔物と知らぬ間に親交持ってやらかした人の前例があるでしょう、この街には」
「うぐっ……! それは……そうだが……」
「問題ないと思ったから放置して、それで深刻な事態になってるのはもうこりごりなんですよ。もう私ぐいぐい口出しますからね孤児院のことに」
「……面目ない」

 ハンフリーさんががくりとうなだれた時、地下室の扉が控えめに開いた。すこし怯えた顔をした妹が、おずおずと顔を出す。

「ね、はいってきて」
「キュイー。かぞくだんらんにおじゃましてもいいのかなー」

 妹の背中から、ぴょこりと見える青い羽。抱きしめやすそうなサイズ感のドラキーがちらりと顔をのぞかせた。

「こんばんは。いきなりご飯に誘ってごめんなさいね。ビーフシチュー一緒に食べない?」
「ボクも一緒に食べていいのー? 魔物なのにー」

 別に、悪さしようとしても、ドラキーぐらいハンフリーさんとベロリンマンさんが退治してくれるだろうしな。
 そんな大人としての予想は、的中しないでほしい。孤児院のみんなもそう思って、口を出すのを控えていたんだろう。私がハンフリーさんのほうを見ると、ハンフリーさんはうん、と頷いた。

「来いよ。一緒に食べよう。いつも妹の面倒みてくれてありがとな」
「わーい、やったー!」

 ドラキーt羽をはばたかせ、ぴゃっと近づいてきた。ベロリンマンさんを見ると驚いたようにまばたきする。

「なんだーすでにお仲間がいたんだー。これならえんりょせずにアイサツしてもよかったんだねー」
「あっ」
「あっ」
「ベロンベロ~ン! オレはイエティじゃないベロ! 失礼ベロ~!」
「ええっ! ごめんなさ~い!」

 両手を上げて威嚇のポーズを取るベロリンマンさんに、ドラキーさんが慌ててテーブルの下に隠れた。

「ベロリンマンのその構え、イエティのまねじゃなかったのか。オレはてっきり」
「ベロベロ……みんなひどいベロ……」
「まあまあ、気を取り直してごはん食べましょうよ!」

 みんなで席に座り、声をそろえていただきます。神様にお祈りを捧げた後、ご飯にありついた。

「うまい! しばらく会わないうちにビーフシチューの味付け変わったんだなぁ~」
「いま働いてるレストランで教わったやり方真似したんですよね。見様見真似ですけど」
「すごくうまいよ」

 ハンフリーさんが朗らかに笑う。その表情は雨上がりの太陽みたいにさわやかで、ちょっと照れしまう。
 妹がドラキーちゃんと嬉しそうに笑いながらごはんを食べている。その表情を見ると、やっぱり食卓に連れてきてよかったな、と感じた。
 ハンフリーさんや次兄もそれは同じだったようで、ドラキーちゃんを見て嬉しそうに微笑んでいた。


   ***


 ドラキーちゃんはそれ以来、実にすんなりと孤児院に溶け込んだ。話を聞けばドラキーちゃんのご両親はすでに他界しているそうなので、孤児院で暮らすのにないの問題もない。意をとなえる町民もいなかった。
 ちょっと前まで魔物に乗っ取られてとんでもないことになっていたグロッタだけど、だからこそドラキーの一匹に驚かなくなっているのだ。教会に入れるぐらい心がきれいなドラキーなら別にいいんじゃない? と微笑ましく見守ってくれている。
 なんというか危機感がないんだよな。
 闘技場がカジノに変わったとはいえ、グロッタには闘士が多く滞在しているから、なにかあっても問題ないとの判断なのだろうけど。なんにせよ、ありがたいことには変わりがなかった。



 日中は慣れない仕事にいっぱいいっぱいで、夜は子供たちの世話。
 慌ただしくて忙しいけれど、ベロリンマンさんの協力もあるし、昔に比べればかわいいものだ。
 神父様――父さんが病に伏せた直後は、孤児院の大人だけじゃ回らなくなって、年長だったハンフリーさんと私に子供たちの世話役が回ってきた。父さんが亡くなって大人たちは孤児院の経営に手を引いて、乳飲み子を抱えてハンフリーさんと共に途方に暮れたものだった。
 激闘の数年間だったな、あれは。
 子供たちの世話に明け暮れて時間がなくなり、外に働きに出れなかったのがつらかった。子供たちが成長してからは私もハンフリーさんも外に働きに出れるようになったし、生活も安定したけれど。そのあとすぐ私が孤児院を出て行ったので、ゆっくりできた時間は本当になかっただろうな。
 思い返すと胸が重くなる。
 あの時は、私が稼ぐお金よりも孤児院で私が消費する諸経費のほうが多かった。家計を圧迫するのがイヤで、ハンフリーさんへ恋心を向けてしまうのがイヤで……それで孤児院を飛び出したのだけど。
 その結果が、まさかハンフリーさんと魔物の――ああ、やめようやめよう。
 ぜんぶ結果論だ。私の決断もハンフリーさんの決断も、すべてがつながって今があり、未来に続いている。
 後悔するより、こうやって孤児院にいる今を大事にするべきだ。


 そんなある日、私は孤児院前の階段で派手に素っ転んでしまった。
 雨上がりの石段に足を滑らせ、膝と肘を盛大に打った。飛び上がるほど痛い。
 仕事帰りについてない。重たい気分で帰宅すると、子供たちが怪我を見てわっと近づいてきた。

「うわあ、痛そう! おねえちゃんだいじょうぶ?」
「すっごく痛い! 薬草ある?」
「あ……どうだろう。ハンフリーにいちゃんがおしごと引退したから、薬草育てるのやめちゃったんだよね……」
「キュイー。ボク救急箱探してくるねー」

 心優しいドラキーことドラちゃんはふわふわと宙を漂いながら台所のほうへと向かっていった。すでに家具の配置を覚えているらしい。

「おねえちゃん、ボクが回復呪文ホイミかけてあげようか?」

 手を差し出しながら私に笑いかけたのは、なにを隠そう孤児院きっての天才、神父役の少年だ。
 この子が神父資格を持ち、神の加護を受けてくれていたから孤児院は魔物に襲われなかったのだ。まだ十に満たない子供だと言うのに、神父として立派にお勤めを果たしてくれている。
 肘の怪我に手をかざすので、私は慌てて腕を引いた。

「こらこら、ホイミを使うのはもったいないよ。私も今お金あんまり持ってないし」
「そんなの気にしないでいいって。かぞくでしょ」
「技術の安売りをするんじゃありません。旅人さんがきみに回復してもらうとき、旅人さんだけお金払うのなんて不公平になっちゃうでしょ」

 優しい子に育ってくれたけど、安請け合いするのはたまに傷かもしれない。

「薬草で事足りるから大丈夫、ありがとう」
「すみません、薬草ないみたいだよー」
「……」

 台所のほうから救急箱を持ってきた妹が、首を振る。救急箱の中身を確認すると、毒消しそうや満月草はあるのに薬草だけがすっからかんだ。

「ハンフリーにいちゃんなら自分の分ストックしてるんじゃない? お仕事から帰ってきたら分けてもらえば?」
「今すぐ何とかしたいんだよなぁ」

 私は苦笑する。
 今日の仕事は朝だけで終わったので、まだお昼手前だ。仕事中のハンフリーさんに会いに行くのも忍びない。

「仕方ない。買いに行くのも馬鹿らしいし、採りに行こうかな。聖水もらっていい?」
「じゃあボクもいくよ! おねえちゃんだけじゃ危ないしっ」

 ホイミを断られ、所在なさげにしていた弟は、役目を見つけたりと言わんばかりに目を輝かせた。
 あれこれ理由をつけて、私と一緒にいたいんだろう。愛されてるなあ私。
 かわいい気遣いをしてくれる弟の髪の毛をくしゃりと撫でた。


   ***


 ──どうしてこんなことになったんだろう。
 私はぼんやりと考える。
 そうだ。油断していた。
 魔物に街を乗っ取られ、孤児院に籠城して恐怖の夜を過ごしていたのは、そう前のことじゃない。つい最近のことだったというのに──喉元過ぎればなんとやら、で、完全に忘れていたのだ。
 町民は全員無事だった。闘技場は壊され、バーはカジノになり、英雄グレイグ様の像は魔物のものに取って代わったけれど。
 周辺の魔物も凶暴化したけど、もともと武闘家の多い町だから自治には困らなかった。
 だから──こんなことになるのだ。

「ガキと女か」
「……っ!」

 私は片手を横にやり、弟を背中に隠した。
 目の前にいるのは名前もわからないような魔物だ。金色の皮膚と翼を持った筋肉隆々の魔族。グロッタの街がブギーに支配された時、我が物顔で街を出歩いていた奴ら。

「どうする?」
「武闘家ではないが、アラクラトロさまの腹の足しにはなるだろう。連れて行くか?」

 魔物は二人でなにやら相談し合っている。今のうちに逃げたいものだけど、すこし身動きしたらなにをされるかわからない。
 踵を返して走り出そうとした瞬間、魔族の指先は瞬時に私を焼き付くすだろう――その瞬間がありありと想像できてしまう。きっとひとりだったら尻もちをついてなきだしていたかもしれない。
 私がこうなのだから、背中に隠れる弟はなおさらだろう。
 服の裾を掴む弟の指が震えている。
 きっと目は泣きそうに潤んで、必死に嗚咽をこらえている。
 魔族は私と弟をちらりと見やった。示し合わせて頷き合う。

「子供は連れて行こう。女は……つまみ食いしてもいいよな?」
「ああ。子供だけで十分だろ。戦闘能力のない女はエネルギーが弱いからな」

 おぞましい会話が繰り広げられる。
 話ぶりからすれば私はこの場で食い殺され、弟は連れて行かれる。遅かれ早かれ、そこにあるのは明確な死だ。
 魔族が私に一歩を踏み出した。圧がすごい。風が来ているわけでもないのに、膝をついてしまいそうになる。
 私は口の中で頬の肉を思い切り噛んで、どうにか一歩後退することをこらえた。
 私にすがりつく弟の手をほどく。
 魔族に一歩を踏み出した。

「待ちなさい」

 喉がひりつきそうになった。声が情けなく震えそうになるのを、拳を握りこんで堪える。

「連れて行くのは私だけでいいでしょう。この子は見逃しなさい」
「ほう、お前、たいそうな口を聞くな」
「あなた、グロッタの街にいた魔物よね? ──なら孤児院の結界も知っているでしょう」

 魔族の表情がぴくりと動く。
 興味を引きそうな単語を羅列しながら、この場を切り抜ける打開策を必死に考える。

「孤児院に私たちが籠城できたのは、あそこが神に愛され、神に守られた教会だったから。だからあなたたちは孤児院に入れなかった」

 我ながら口がぺらぺらと動くな、と感心する。
 胸に手を当てたとき、身振りまで入った! と自分で驚いた。

「――私は孤児院のシスターです。連れていくなら私を連れて行きなさい!」
「お姉ちゃん……!?」

 毅然とした言葉がごくごく自然に、私の口からこぼれてきた。
 神様へのお祈りなんて食事前に捧げるだけの、大して信心深くもない私の口から、ホンモノのシスター然とした自己犠牲の言葉があふれてくる。

「確かに私は戦えませんが、神の子供です。魔物にとっては栄養素の塊なのではないですか?」
「ふむ……。確かに孤児院にはいくらやっても踏み込めなかった。あれだけ強固な結界が張れるシスターなら、アラクラトロさまもお喜びになるだろう」

 ――引っかかった!
 思わずガッツポーズしたい衝動をこらえる。目踏みをするように二人の魔族を、顎をあげて見下ろした。シスターのする仕草ではないと思うけれど、精一杯の『強そうな、自信ありげな』態度を意識する。

「ならば子供は見逃しなさい。もっとも交渉が決裂しても困るのは貴方がたですが」
「ま、待て! 呪文を唱えるのはやめろ! おれたちもブギーさまがやられて、勇者たちから逃げ出した傷が癒えていないんだ」
「ちょっと考えさせてくれ」

 魔族は慌てて手をひろげて私を押しとどめる。
 やはりブギーの残党だったらしい。私などが太刀打ちできる相手ではない、という恐怖が確信に変わる。
 恐ろしいのは、ブギーの手下で、勇者から逃げ出したと語るこの魔族二人が、今は違う誰かに仕えているらしいことが断片的に理解できるからだ。
 またグロッタに危機が迫っているというの。
 ──それなら、なおさら。
 私にすがりつくこの子が神父だと勘付かれてはならない。
 子供ながらに強い魔導の資質と敬虔な信仰心を持った私の弟。この子と神の加護がなければ、孤児院にも魔物が押し入るようになる。この子はグロッタに必要だ。失えない。

 そしてなにより。
 私の大切な弟だ。傷つけさせはしない。絶対に。
 魔族はふたりでアイコンタクトをして頷いた。

「その子供は見逃そう。しかしオレタチのことを大人に報告されても困るんでな」

 黄色の指先に禍々しい光が灯る。その光は弟の喉に吸い込まれ、不思議な文様を浮かび上がらせた。

「なにを……!」
「落ち着け、ちょっと声を封じる呪いをかけさせてもらっただけだ」

 確かに、グロッタの街の闘士たちを呼ばれては困るのだろう。五体満足で帰してもらえるだけありがたいと思うべきか。
 喉を抑える弟は、息をひゅうひゅうと吐くだけで何もしゃべらない。喋れないのだ。
 弟の喉に浮かび上がった文様はすでに肌になじみ、跡形もなくなっている。助けを呼んできてもらうのは期待しないほうがよさそうだ。
 やれやれ。ため息が出そうになる。いよいよ私の死が差し迫っているらしい。
 だけど、弟が泣きそうな顔で私を見上げている。
 その潤んだ瞳を見れば、取り乱したり泣きわめいたりする気にはなれなかった。

 ――ああ、なんてかわいいんだろう。

 心の底から慈しみの気持ちがわいてくる。
 自然と頬が持ち上がった。

「もう大丈夫だよ、孤児院にお帰り」
「……! ……!」

 ぶるぶる震えて、弟は首を振る。私の服の裾を引っ張って、なにも言えずに吐息を吐き出して。
 どうかそんな顔をしないでほしい。
 小さな頭を優しく撫でて、精一杯の笑みを浮かべた。

「絶対私が守るから……」
「……っ!!」

 弟の目から涙がこぼれた。
 それを振り切るように踵を返し、土を蹴り上げながら走って逃げて行く。
 ──そうだ。それでいい。
 私は弟の姿が見えなくなったのを確認してから、目の前の魔族を見据えた。
 まるで自分が殉教者にでもなったかのように。


   ***


 どうしてこんなことになったんだろう。
 ボクは必死に手を振って、足を蹴りあげて走った。
 薬草を取りに行ったら怖いまものがいた。
 おねえちゃんがボクをかばって、まものに連れ去られた。
 なんで、なんで。なんでこんなことになるの。
 ボクが薬草取りに行こうって言ったから?
 情けなくて涙が出る。視界がにじむ。最低だ。
 なにが最低って、おねえちゃんがかばってくれた時ボクは安心してしまったんだ。
 おねえちゃんがいるから、ボクはたべられなくてすむって。
 それがいやだ。
 地面の土を蹴り上げて、必死に走る。
 逃げるためじゃなくて、おねえちゃんのために。
 ──ハンフリーにいちゃんなら、あんな魔物すぐやっつけてくれるはずだ。
 こぶしをにぎりしめて、両手を振り上げて走る。
 待ってて、おねえちゃん。すぐ助けに行くからね。

 全力疾走して、グロッタの町へとたどり着く。
 心臓が破裂しそうだ。咳き込みながらふらふらと歩いていると、見知ったおばさんがボクに気づいた。

「あらぁ、ハンフリーさんとこの坊やじゃない。教会のお仕事はいいの?」
「……! ……! ……!」
「どうしたの?」

 おばさんは心配そうに眉をひそめてボクの顔をのぞきこむ。
 ハンフリーにいちゃんはどこ!? というボクの叫びは声にならない。なにかが喉でつっかえてる感じがして、息が音にならない。
 ボクは喉を押さえた。まものの呪いのせいでしゃべれないんだ。

 孤児院に……教会に行けば……だめだ。神さまにお願いして呪いをといてもらうには、声に出してお祈りしないといけない。しんぷであるボクが呪われているのだから、グロッタの町にボクの呪いを解いてくれる人は誰も居ないことになる。
 闘技場で働いてたごろつきのおじちゃんなら解いてくれるかもしれないけど、闘技場がなくなっちゃって無職になって、グロッタからいなくなっちゃったはずだ。

 どうしようどうしよう。
 おばさんは心配してくれるけれど、今は正直おばさんにかまっているひまがない。
 隣をすり抜けて走り出す。

「ま! あいさつぐらいしなさいよ~! ハンフリーさんによろしくね!」

 後ろからかかる声は、ごめんなさいだけど無視をした。
 この時間ならハンフリーにいちゃんは孤児院に戻ってるはずだ。
 ハンフリーにいちゃんは家を建てるおしごとだったり運び屋のおしごとだったり色んなおしごとをしているけど、だいたいいつもお昼は孤児院でご飯をたべるのだ。
 下層への階段を降りる。
 土を蹴り上げて酒場を横切った。
 道をふさぐようにたむろしている大人たちに肩をぶつけ、ボクは地面に転がった。

「おいおい、だいじょうぶか?」
「前見て走れよ」

 心臓がふくらみきって、ばっくんばっくん動く。肺がひりついて息がうまくできない。手足が痛くて、動かすと痛い。立ち上がると足首に痛みが走った。くじいてる。
 ボクは顔をあげ、歯を食いしばった。足をもつれさせながらもう一度走り出す。
 街並みを抜けていくと、孤児院の石段のところにハンフリーにいちゃんの姿を見つけた。
 いつものオレンジのバンダナに、紫色のベスト。ボクたちがむかしプレゼントした服を、ぼろぼろになっても補修して、腰に巻いて使い続けてくれている。見間違えるはずがない背中。
 ハンフリーにいちゃん、と呼ぶ声は言葉にならない。
 ボクが息も絶え絶えになりながら走り寄ると、ハンフリーにいちゃんはおお、と驚いた顔をした。

「おまえ、昼メシも食べずにどこほっつき歩いてたんだ?」

 ハンフリーにいちゃんの声だ。安心のあまり、身体から力が抜けてしまう。
 地面に倒れこみそうになるボクを、ハンフリーにいちゃんの太い腕が支えてくれた。

「なにかあったのか? 泥だらけだし、こんなに息を切らして」

 ボクはなにも答えられない。咳き込みながら息を整えていると、ハンフリーにいちゃんが背中を撫でてくれた。

「ランニングしてきたベロか? 精が出るベロン。将来は立派な武闘家ベロね!」
「いや、それにしちゃ様子がおかしくないか?」

 声をだせないじぶんがもどかしい。
 そうだ。声を出せないなら文字を書けばいいんだ!
 ボクは手近な石を掴みあげて、地面にがりがりと文字を書いた。
 ――おねえちゃんが危ないんだ! たすけて!
 そう書き込んで、指を指す。
 ハンフリーにいちゃんとベロリンマンが文字を覗き込んだ。

「ん? どうした地面に文字なんか掘って……なになに? 『ボクの下がスタンドなんだ』?」

 ちっがーう!
 呪いのせいか、思ったことが文字に書けてなかったらしい。
 慌てて再び地面に文字を走らせようとするものの。
 ……なんて書くべきなのか、わからなくなる。
 ちょうちょ結びをしたリボンの端と端をつまんで引っ張ると、するりとほどけてしまうように。
 考えの糸がするするほどけていって、なにも考えられない。
 おねえちゃんのことを伝えないといけないのに……それを文章にすると……なんてなるんだっけ……?
 頭のなかにもやがかかったみたいに、伝えたいことがぼやけてしまう。

「よくわかんないけど、遊びたいのか? わるいけどオレはこれから仕事だからさ。ほらっ! 孤児院の前までだっこしてってやるから、ベロリンマンに遊んでもらえよ」

 ハンフリーにいちゃんがボクを抱き上げた。孤児院に連れていかれそうになるのを必死に抵抗する。
 ちがうんだよ、おにいちゃん。
 気付いて。
 おねがい。
 暴れるボクをじゃれついていると勘違いして、ハンフリーにいちゃんの両手がボクを抱き上げたまま石段を登っていく。
 ちがう、ちがうんだよ! おにいちゃん!
 おねえちゃんがあぶないんだよ!!
 ボクが心のなかで必死に叫ぶと、ボクの様子がおかしいことに気づいたのかハンフリーにいちゃんが階段の途中で立ち止まった。

「……さっきから全然喋らないけど。もしかして、本当になにかあったのか?」

 ハンフリーにいちゃんの細い目が、ボクを覗き込む。
 ボクはこくこく頷いた。
 にいちゃんはボクを階段の上におろすと、膝を折ってボクと目線を合わせてくれる。

「待て。がいないし……確かおまえたち、二人で薬草取りに行ってたんじゃないのか?」
「ここに来る途中で分かれたんじゃないベロか? 職場に忘れ物取りに行くとか、よくあることベロン」

 ベロリンマンは黙ってて!!

「――ひょっとしてあいつになにかあったのか? そうなんだな!?」

 ああ、わかってくれた。
 わかってくれるって信じてた。
 ハンフリーにいちゃんならボクの言いたいことわかってくれるって、信じてた。
 ボクが泣きながら頷くと、ハンフリーにいちゃんがボクの肩を思い切り掴んだ。

「どこでなにがあったんだ、あいつに!」

 しゃべりたくてもしゃべれない。ボクは立ち上がって、孤児院の中に入った。
 ドラちゃんを探す。おねえちゃんとボクが薬草を取りに行く話をしていたときに一緒にいたから、ドラちゃんなら説明できるはずだ。
 妹と一緒に遊んでいるドラちゃんを見つけた。
 飛びついてドラちゃんを抱え込み、ハンフリーさんのところに持っていく。

「わあっ!? いったいなんですか!?」
「ちょっと、ドラちゃんに乱暴しないでよ!」

 妹たちの抗議が胸に痛い。ごめんね。
 ハンフリーさんはすぐにボクの考えに気づいてくれた。ドラちゃんと視線を合わせる。

「おい、こいつがお昼前に出かけたところ知らないか? 確か薬草取りに行ってたんだよな? こいつ、いま喋れないみたいで」
「え? えぇと、確か湖のほうにいくとか……」

 ボクはこくこく頷いた。ドラちゃんの後ろに立って、わあっ、と両手を広げるポーズをする。

「まさか、魔物に襲われたのか……!? ああ、くそっ」

 ハンフリーさんが身をひるがえした。慌てて自室に向かっていって、慌てて装備を整え始める。

「ベロンベロン……一大事ベロン!」
「ベロリンマン、お前はここに居てくれ! なにかあったときのために孤児院を守ってくれ!」
「でもひとりじゃ――」
「いいから!」
「……わかったベロン。みんなの無事はオイラに任せろベロン!」

 ハンフリーにいちゃんのいきおいにおされたベロリンマンが引き下がる。どん、と胸を叩いて頷いた。
 ボクはどうすればいいのかわからない。
 まごついていると、気がついたハンフリーにいちゃんがボクを呼んだ。

「ここまで知らせてくれてありがとな。これからも教会のお仕事、頼むぞ」

 頭をくしゃりと撫でて、ハンフリーにいちゃんが笑う。
 ボクのために。
 ボクはまた泣きそうになるのをこらえて。うん、と頷いた。そうしなければ、ハンフリーにいちゃんが安心して戦いに行けないと思ったからだ。

「……行ってくる」

 ハンフリーにいちゃんが爪を装着した。孤児院の扉を開いて、外に出ていく。

「すぐ帰ってくるよ」

 ただそれだけを、言い残して。





2017/10/14:久遠晶
 この分だと次回が長めの最終回になりそうです。
 もしいいね!と思っていただけましたら送っていただけると励みになります!
萌えたよ こういうのもっと読みたい! 誤字あったよ 続きが気になる!