エドガーと侍女
獅子の尾のように揺れる金の筋を、ぼんやりと見つめる。寄り添って揺れる水色のリボンになりたいと、半ば本気で思う。
今日も今日とて、自国の王さまは麗しい。
「くん、私に見とれるのはいいが手が止まっているぞ」
「へ……? あっ!? も、申し訳ありません!!」
「ふふ、レディに熱っぽい視線を送られるのは嬉しいのだがね。どうだい、私の子を産んでみる気は?」
言うが早いや、エドガーは微笑みながら私の頬に指先を近づける。近づけるだけで決して髪や肌に触れはしない――エドガー様はそういう「距離感」を心得ている方だ。明確にポーズだとわかるから、私は笑って囁きを受け流せる。
「エドガー様! また侍女に手を出しておられるのですか!」
「おっと、小うるさいばあやが来た。この続きはまた今度」
ぱちん、とウィンクをしてからエドガー様はメイド長から逃げるように場を後にする。コートがぶわりとはためいて、掻き消えるようにして居なくなってしまう。
エドガー様に逃げられたメイド長は、ぶつぶつと不満げだ。
「まったく、エドガー様ったら……いい加減立場をご理解頂きたいものですわ」
「あはは……」
「あなたもいい迷惑よね、作業中断させられて」
「ハハ」
エドガー様に助けていただいた身としては居心地が悪い。お礼をしたいけれど、どうすればいいだろう。
ふと窓の外を見るとエドガー様が別の侍女に声をかけていた。……ほんと、エドガー様ったら。
侍女にさしのべたエドガー様の手が、その肌に触れていないことにほっとする。
エドガー様の指が触れる女性はどんなひとだろう。そればかりが気になって、私はまたぼーっとしてしまった。
2014/8/19:久遠晶
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