嘘つきのふり


「L、あなたの誕生日って何月何日ですか?」

 その言葉は、彼にとっては唐突なものだったのだろう。先ほどハロウィンだから、という理由でわたしから巻き上げた大量のお菓子を頬張っていたLは、そのままの体勢でわたしを見つめた。

「なんですか藪から棒に」
「や、わたしはこの前Lに誕生日をお祝いしていただいたのに、わたしはLの誕生日も知りませんから」

 お祝いされたと言っても、いつも通りのぼそぼそ声で祝われて、Lのためのケーキをすこし分けてもらったぐらいだが。
 Lはくちもとについたクリームを指でぬぐい、ぺろりとなめながら考え込む。

「申し訳ありませんがそれは――」
「『企業秘密』ですか?」
「……よくわかりましたね」
「あなたの性格と立場はよく存じております」

 苦笑しながら肩をすくめる。
 教えてもらえないことはわかっていた。
 世界一の名探偵Lは個人情報を明かさない。常にパソコン越しに指示を飛ばすのが通常で、こうして対面していることこそが本来異常なことなのだ。
 目を見て会話ができるだけでも御の字というべきだろう。
 わかっていたのに質問してしまったのは、もしかしたら――と思ってしまったからだ。

 もしかして、わたしにだけは明かしてくれるかも。そんな淡い期待は脆くの崩れさった。いつかの日に押し付けられた唇の意味も、Lの本心も……わたしにはわからない。

さん、こちらに座ってください」
「ん? はぁ、わかりました」

 ソファのうえに体育座りするLが、隣を叩いてわたしを誘う。促されるまま隣に座った。
 Lは頭を私の肩にこてんと乗せる。そのしぐさはまるっきり子供で、ときめきを感じることもできない。
 夜神さんたちが出払っているわずかな間、Lはこうして甘えてくるようになった。その真意を、測りかねている。

「ねーL、ほんとの誕生日を教えろとは言わないんで、適当に誕生日決めてくださいよ。そしたらその日に、お祝いしますんで」
「なんですかそれは」
「要は一年に一回、おめでとうって言える日があればいいんです」
「じゃあ今日ということで」
「……はあ。ま、いいですけど」

 あまりにも適当な指定にため息がこぼれる。

「ハロウィンが誕生日でも、もらえるお菓子は倍にはなりませんよ」
「おや、それは残念です。いたずらするしかないですかね」
「ハロウィンの分は先ほど差し上げたじゃないですか」
「確かに。先に誕生日の分をもらっておけばよかった」

 がめついのかなんなのか。いつも通りの平坦な声で言われると、本気か冗談かなかなかわからない。

「誕生日おめでとうございます、L。あとでケーキでも買ってきますよ」
「……ふふっ」

 吹き出すようにLが笑う。自分で今日を誕生日に指定しておいて、なんてひとだ。
 思わず唇がへんな形にねじまがる。それをみてLはまた笑った。
 Lはシュークリームを頬張る。シューから溢れたクリームを指の先でぬぐい、

「幸せのおすそわけです」

 私の口のなかにねじ込んだ。クリームがまとわりついた指を私の舌に擦り付け、Lは噛まれる前にと指をすぐさま退却させる。
 一発殴ってやろうか、というレベルの所業だ。いったんは拳を握ったものの、すこぶる嬉しそうなLに毒気を抜かれて指を開いた。
 ため息しか出てこない。
 誕生日じゃない日を祝われても嬉しいものなんだろうか?
 でもまぁ、おすそわけするほど幸せなようでなによりです。





2014/10/31:久遠晶
今日が誕生日って聞いたので。Lたそおめでとう。  もしすこしでもいいね!と思っていただけましたら、拍手ボタンをぽちぽちしていただけると励みになります~
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萌えたよ このジャンルの夢もっと読みたい! 誤字あったよ 続編希望!