雪だるまが恋愛対象に入ってしまった



「オラフはエルサ女王の魔法で動いていますが、ということはオラフはエルサ女王に『支配』されているモノなんですか?」

 私がそう聞くと、理知的なエルサ女王に珍しく彼女はぽかんと口を開けた。瞬いた瞳がわたしをまっすぐ見つめる。

「考えたことがなかったわ。作り出した意識もなく、気がつけば生まれていたから」
「では、考えてみてください。オラフの成り立ちが、わたしには不思議なんです」
「そうねぇ」

 エルサ女王はふうと息をつき、琥珀色をした紅茶に口をつけた。ラズベリーの匂いがする上等な紅茶は、アレンデールの特産のひとつだ。
 どうだっていいじゃないと言いたげな視線がちらりとわたしをうかがう。エルサ女王の内心を無視して、わたしは答えを待ち構えた。
 オラフは今ごろ、アナとともに広場に赴いていることだろう。この国の人々がオラフの成り立ちに関心がなくとも、わたしにとっては重大な事柄だった。

 オラフがアナを見つめる視線はいつだって暖かい。まるで、妹を見守る兄のように。アナの姉君であるエルサ女王の作り出した魔法生物とするならば、その目にも納得がいく。
 オラフは最初からアナが大好きだったと聞いている。エルサ女王の意識が、オラフがアナに向ける好意になっているとするのなら。
 そこにオラフの自我はあるのだろうか。
 エルサ女王はううん、と首を傾げて考え込むしぐさをする。

「オラフは確かに私の魔法で動いているみたいだわ。でも私とは性格はまったく違う。考え方もね。だから、オラフの意思は私とは違うところにあるの。……これで満足かしら」
「なるほど。納得し、理解しました。お話しを聞けてよかったです。これを踏まえてちょっと相談があるのですが」
「ごめんなさい、そういうわけだから、オラフの好みの女の子はわからないわ」

 先回りされて釘を刺される。ぜんぶお見通しと言うわけらしい。困った顔をして頬に手をやるエルサ女王に気まずくなる。
 わからないとは言いつつも、考えてくれてはいるらしい。

「……待ってください、そんなに顔に出てますか、わたし」
「やっぱりそうだったのね。結構わかりやすいわよ」
「うぐっ……気を付けます」
「でもオラフは『愛のスペシャリスト』ではあるけど、自分の恋に敏感かどうかはわからないわ」
「いや……鈍感ですよ。あいつ」

 仕方のないことかもしれない。まさか雪だるまに本気で惚れてる女がいるなんて誰も想像してないに違いない。
 本気ですきだよなんて言われていると、誰が思うだろう。例えばわたしがオラフに本気ですきだよと言われても、多分気づきやしないだろう。

「応援するわ、私。の恋を」
「……ありがとう、あなたに言われるとがぜんやれそうな気がしてきます」
「『真実の愛だけが凍った心を溶かす』、頑張ってね」
「オラフ溶かしたら水になっちゃいますよ」

 苦笑して紅茶を煽る。行儀が悪いと飲み干してから思ったが、エルサ女王は眉をひそめることもなく容認してくれた。
 真実の愛――そんな自己犠牲的な献身なんて出来るわけがない。振り向いてもらえない確信があって、そんなわたしは戦う前から声に破れているのだろう。
 ライバルがいないことは救いなのだろうか。誰のものにならないとしても、結局わたしのものにもなってくれない。ショーウィンドウに飾られた値札のない展示品は、ある種の絶望だ。

「……昔の私に似てるわ、あなた」
「え?」
「頑張ってね」

 エルサ女王の目はどこまでも優しい。その暖かさに泣きたくなって、誤魔化してわたしはにっこり笑った。





2015/05/31:久遠晶
魔法生物オラフの自我のありかは夢的にとても重要
 試験中。もしいいね! となりましたら送っていただけると励みになります!
萌えたよ このキャラの夢もっと読みたい! 誤字あったよ 続編希望!