運命のひとはコイツじゃない
こいつの脳みそは腐っているのか?
と、ブルーは時々疑問に思う。
「やっぱり、運命の人っていると思うのよねぇ」
クーロンの地脈に刻まれた保護のルーンを手に入れる為に、ブルーは自然洞窟に足を踏み入れていた。
「ふむ。運命の人か。中々ロマンチストなんだな、君は」
おそらくは誰に言うともなしに呟いたのであろうの言葉に、ヌサカーンが反応する。
わが意を得たり、と言った具合にが頷いた。
「そうよぉ。タンザーの粘液にまみれてスライムとぐんずほぐれつしてたりするけど、私だって普通の女の子なんだから~」
「あのまま消化されていればよかったものを」
ブルーがぼそりと毒を吐く。当時を思い返すととブルーの眉間にシワが寄る。
忌々しい。
ブルーがと出会ったのは混沌を移動する生きるリージョン、タンザーの中でのことであった。
勝利のルーンを得る時のことだ。
フェイオンとがスライムを押さえている隙を見計らい、奥にあるルーンにブルーが触れる。
ブルーとしてはルーンを手に入れた時点でタンザーの腹の中に用はないので、フェイオン達を見捨ててゲートを開いて空間移動をしようとした。
その時、スライムに圧死されかけたが藁をも掴む思いで、ブルーの法衣を掴んだのだ。
それにブルーが気付いた時は、既に遅し。
ブルーは粘液にまみれたと、その上に乗っかったスライムと共にクーロンに降り立っていたのだった。
その後ひと悶着あったものの、フェイオン達が無事タンザーから脱出できたことをテレビで知ると、はブルーの旅に半ば無理矢理同行することを決めたのであった。
『私だってルーン欲しかったのに、あんたのせいで私は活力のルーンを取れなかったんだから』とは本人の弁。
なんでこんなやつと旅をしなければならないんだ、とブルーは思ったが、結局のところは『有能』なのであった。
有能でなければこんなやつ捨て置いてやるのに、とブルーは思う。
「リージョン界は広いからね~。ひとつのリージョンにいたら運命の人と出会えないかもしれないじゃない? やっぱり人間、愛よ愛。世の中好きな人をハンティングする勢いじゃなきゃ!」
ヌサカーンの相槌に気をよくしたのか、は陶酔しながら空中に向かって話しかける。
「ふむ。確かにその通りだな。私も新たな病を発見するには、クーロンの外に出てみるのも一計かもしれない」
「そうそう、なんなら保護のルーン手に入れた後も、一緒に来る?」
「考えておこう」
俺への許可はなしか……と、ブルーは心の中で呟いた。
が勝手にブルーについてきているのだ。ならば、連れ歩く人間の決定権は最終的にブルーにあるはずだ。少なくとも、が勝手に勧誘していい義理はない。
もっとも、ヌサカーンも『利用出来る』存在であることはこれまでの道中でよく把握しているので、断る理由はないのだが。
に我が物顔で言われると腹が立つ。
「それにしても」
道を先導するヌサカーンが振り返ると、が首を傾げた。
「君の運命の人とやらはもういるのではないか?」
「え? どこに? ヌサカーン先生はいつかIRPOに検挙されそうな感じするからノーサンキューだよ」
「そうではなくて」
「え、スライムちゃん? この子性別不詳だし、アモルファスはちょっと……」
ヌサカーンが首を振った。腕を持ち上げる。
ヌサカーンの指の先にブルーがいることを確認すると、はあからさまに表情を歪めた。
「パス」
「こちらの台詞だっ!」
「私、こいつと結婚するぐらいならスライムちゃんと結婚したほうがいいなぁ」
の言葉に、スライムが心外だ! というかのようにぴくぴくと動いた。
ブルーと比べられてはたまらない、と言いたいのだろう。
それこそこちらの台詞だ。ブルーは眉間にしわを寄せた。
「そうかな? 二人の相性はいいと思うが」
「どこが!」
「どこがー!?」
噛み付くような異議申し立てはほぼ同時だった。
思わず顔を見合わせ、二人してむっとする。
「ブルーはありえないよ。こーんな陰険魔術師……」
「貴様のような品のない女、私のほうがお断りだ」
「ハッ、出会う人間ひとりひとりに演技かますのはお上品なんですかね~学のないわたくしにはまるでわかりません~」
ブツブツとした嫌味の応酬が洞窟内部に反響してこだまする。
これではモンスターに襲ってくださいと言っているようなものだ。ブルーは深呼吸をして気を落ち着かせた。
本来ブルーは冷静かつ理知的な人間である。しかしどうにも、が相手だとそれが崩れてしまう。
イライラするのだ。
静かにしろ、と一喝してもは懲りずにヌサカーンとの談笑を続ける。イライラしたが恫喝しても無駄なので堪える。
ややあって洞窟内に立ち込める冷気が増してきた。そろそろ最奥部に差し掛かるはずだ。
「うっ。この先モンスターちゃんいっぱいだねぇ~ッうようよいるね」
「量が多いな……体力を温存してかかるぞ」
「わかってるよ、隊長。あんたに従うのはシャクだけど、あんたの作戦どおり動くのが一番だもの。体術? それとも剣?」
「剣だ」
「アイアイサー」
ごくごく自然に、身構えるブルーの前に一歩が出た。姿勢を低くして愛剣の柄に手をかける。
はブルーを大変イラつかせるが、同時に『有能』であることは否めない。
間抜けな顔で持論を展開したはすでにいない。唇を引き結び、真剣な顔で闘いに備える顔を後ろから見やって、ブルーはふっと笑った。
「まず烈風剣で先制攻撃をかませ……油断するなよ、!」
「わかってますってこと、よッ!」
闘気を全身にみなぎらせたもニヤリと笑った。
運命の相手ではないだろうが、の存在は素質収集には欠かせない。認めたくはないが、ブルーにとっていい相棒だった。
本人には絶対言わないけども。
2013/9/2:久遠晶
二年ぐらい前に書いてた。ブルーかわいいよブルー。
長編用に考えてた女の子のテストプレイみたいな話なので、そんなかんじ。
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