太陽が笑う


 体内で奏でられる、爆発までのカウントダウン。
 サンゴッドは壁にもたれかかり、静かにその時を待っていた。
 最後の瞬間思うのは、つい先ほどまで目の前にいた少年のこと。

 ――サンゴッド……!――

「ふふ……ロックマンは、泣きそうな顔、をしていたな……」

 こんなわたしの為に……。
 力なくサンゴッドは笑った。ロックマンとの激戦で、彼の身体のあちこちが悲鳴を上げていた。
 彼が生まれた文明は、きっとすばらしく平和なのだろうな……。
 それは、サンゴッドが生まれた文明では考えられないことだった。

「さようなら、ロックマン」

 エネルギー切れ。意識が急速に遠のいていく。
 サンゴッドの意識が完全に途切れた時――この基地は、そしてサンゴッドは宇宙のチリとなる。
 それでいいと思った。
 ロックマンは自分を助けようとしてくれたが、ロックマンのいる平和な世界に、自分のような破壊の為だけの存在など必要ないのだ。

「……ありがとう」

 かみ締めるように呟いて、サンゴッドは目を閉じた。


   ***


 ぱちり、と目を開けた。
 ロックマンが目の前にいた。

「!? ここは……」
「サンゴッド……起きたんだね、よかった……!」
「なっ、きみ、は、ロックマン……か? いや、それより何故わたしは生きて……」
「アースたちが爆発の寸前に、きみの身体から電子頭脳と切り離してくれたんだよ」
「な――アース、だって?」

 その言葉でサンゴッドはやっと、アースたちが自分を取り囲んでいることに気付いた。
 ここはどこかの研究所らしい。ロックマンとの激闘の傷は、綺麗さっぱりなくなっている。

「いやー、ロックマンを倒すために壊された身体を鞭打って移動してきたら、あなたが爆発しそうになってまして~。だから思わず、頭脳だけでも持って帰ったんですよ~」
「ネプチューン。どうして……なぜだ? わたしと君らは、敵同士だったのに」

 サンゴッドが眠りにつく前――サンゴッドとアースたちは、違う国の科学者の下で生まれたロボットだった。つまりは、破壊すべき敵。
 なのに何故……。サンゴッドが理解出来なかった。

「私は反対したのだ。それをコイツらが……!」
「そうは言ってようアース、お前が一番必死じゃなかったか?」
「黙れ、サターン!」
「どうして……」
「敵同士って言っても~それは昔の話しじゃないですかあ」
「今は同じワイリー博士に復活させてもらったロボット同士だしよぉ。まあ死ぬこたーねえと思っただけだよ」
「マース……」
「まあその後、お前が博士を撃ったと知ったんだがな」
「アース、そういうこと言うなって」
「ふん」

 仲間からのつっこみにアースは憮然とした表情を崩さない。

「とにかく、そういうことじゃ。はじめまして、サンゴッドくん」
「あなたが……ライト博士、ですか?」
「ああ」
「わたしはロール。よろしくね」

 初老の男性と、ロックマンの兄弟機と思しき少女ロボットがにっこりと笑った。

「目覚めてよかったよ、サンゴッド!」
「ええ、友達が増えて嬉しいわ!」

 嬉しそうにロックマンとロールが笑う。
 サンゴッドは素直にその笑顔を受け止めることが出来なかった。

「どうして……わたしを助けたんだ」
「え?」
「だからさっき言って――」
「わたしは破壊の為だけに生まれたロボットだ! 忌まわしい……わたしの力は、破壊の為にしか使えない! そんな存在を、何故きみたちは――」
「サンゴッド! それは違うよ!!」

 ロックマンがサンゴッドの言葉を遮り、叫んだ。

「基地の時にも言ったけど、力は破壊する為だけじゃない、何かを守る為にも使えるんだ! ぼくは平和の為にロックマンになったよ……。アースたちも、きみが言う破壊の為にしか使えない力できみを助けたんだよ」
「壊れた足で走るのは骨が折れたぜー」
「プルート……」

 ロールが、そっとサンゴッドの手を包んだ。

「あなたの話し、ロックから聞いたわ。あなた、すんごくまじめなのね。破壊の為だけに生まれた……って言っても、そのあとどうするかは、自由じゃないかな……?」
「俺たちのいた文明なんて滅んじまったんだしよー」
「サンゴッド……きみは、自分が爆発するからとぼくを気遣ってくれたじゃないか。きみは、破壊の為にしか生きられないなんてことないよ」
「……ロックマン……」

 ロックマンはかぶりを振った。

「違うよ。今のぼくは家庭用ロボット『ロック』だよ」
「ロック……」
「なんだい、サンゴッド」

 彼はなんと、優しい瞳をするのだろう――。
 触れられたロールとロックの手を、サンゴッドは静かに握り締めていた。
 壊してしまわないように、慎重に。するとロックとロールも握り返してくれる。
 自分のような戦闘用ロボットを恐れないなんて……。
 サンゴッドが自分を攻撃するはずがない、と信じきっているのだ、彼らは。

「わたしは……ここにいてもいいのか?」

 発語がうまくいかない。声が震えていた。
 握り締めた手に、ライト博士の手が重なる。

「大歓迎だよ、サンゴッドくん」

 きっと、彼に泣く機能が備わっていたら声を上げて泣いていたに違いなかった。


   ***


「言っておくが、私が貴様を許したわけではないからな」
「……すまない」
「はいはい。ワイリーにいい加減世界征服なんて諦めなさいよって言っといて」
「家庭用め……破壊されたいのか」

 アースが忌々しげに呟く。実行に移そうとしないのは、ロールが人間ではなくロボットであるのと、目の前にサンゴッドとロックがいるからであった。
 ライト博士の研究所の前で、サンゴッドはアース達を見送っていた。

「ええと……アース」
「なんだ」
「その……博士に申し訳ない、と……」
「……仕方ない。了承した。だが、私は貴様を許さんぞ」

 きっ、と睨まれる。アースはワイリーへの忠誠心はスペースルーラーズ一厚い。

「では、我々はもう――」
「ああっ、待ってくれ。それと……」
「なんだ。まだワイリー博士になにかあるのか?」
「えっと、いや……その。あ、アリガトウ」
「なんだと?」
「助けて……くれて。感謝してる……」
「っ、別に……貴様に礼を言われる筋合いはない。ただ、私はネプチューンがどうしてもと言うから……」
「アースー顔赤いですよ~」
「うるさい!!」
「ちょ、スパークチェイサーは反則……ぎゃー!!」

 ネプチューンが悲鳴を上げて逃げ回る。その光景を見ながらロックが笑い出し、つられてスペースルーラーズが笑う。
 古代文明時には考えられなかった光景にサンゴッドは目を丸くし……そしてくすりと、ぎこちなく笑う。
 夕日が世界を染めていた。
 だけれど、日はまた昇る。





2010/06/28:
 日記に書こうとしていたワールド5感想文が消えてしまった悲しみで書いた物。
 メガミックスのコピーロックマンもそうだけど、サンゴッドには生きててほしいです。物語上、死ななければならないとわかっていても……!
 アースがツンデレになってしまった。作中で唯一喋るSRだからいじりやすいんです。ギガミックスでのアースしか知らなかったから原作やってびっくり。