街を壊された少女は思う


 人間とロボットの違いってわかるかしら、と、その女の人――ロボットに性別があるなら――は首をかしげました。
 絵本の中の魔女が箒に座って夜を翔けるように、その女の人は槍に座って浮き上がる。
 きれいでした。
 蒼い月と瓦礫を背景にした人魚が槍に座り、空中に浮き上がる――夢のなかみたいな光景に、私は見とれてしまったのです。

 地面にへたりこむわたしを見下ろすその表情は、どことなく同情的です。
 ロボットなのに、っておもうでしょうか。
 でも、わたしにはそう見えました。なににたいして同情しているのかは、わからなかったけど……。

「尋ねているのだけれど……答えてはくれないのね?」
「ひっ……」

 きれいにととのったくちびるが、静かに言いました。
 答えられませんでした。
 なにを質問されたのかすら、わたしはおぼろげだったのです。
 ただわたしにわかるのは、この街が、人魚さんたち――Dr,ライトさんのロボットによってこわされていることだけ。

「教えてあげましょうか」

 どこからか飛んできた、蜂のかたちをしたロボットを指先にのせて、そのひとは淡々とつぶやきます。わたしに向かってなのか、自分に対して言ったのかはわかりません。
 だけれど、それは確かにわたし――いや、人間へと向けていたのだと思います。
 遠くから聞こえる大きな音は、その人の仲間たちによるものなのでしょう。
 わたしも早く逃げた方がいい。そう思うのに、からだが動きませんでした。
 人魚さんは蜂型ロボットをめでるのをやめ、わたしに視線をうつします。

「人間はロボットのことなんかどうでもよくて、ロボットは人間に愛されたくって仕方ない……それだけの違いよ」

 ロボットは、人間が好きで好きで仕方ない。
 そう言う人魚さんの瞳には、わたしたちが言うところの愛情があるようにはみえませんでした。

「それは、昔のロボットの話しだろう」
「ホーネット」

 彼女の後ろから、今度は男の人のかたちをしたロボットが現れました。

「そろそろ行くぞ、ロボットポリスが来る」
「ええ、わかったわ」
「どうして……」
「……なんだ、人間」

 男の人のかたちをしたロボットさんはわたしを見下ろすと、ふんと鼻を鳴らした。
 マスクごしで表情はわからないけど、人魚さんと同じ目をしていたようにおもいます。

「どうして、この街を……なにかいけないことしたの、わたし……」
「……その言葉、そのまま返すさ」
「そうね」
「どういうこと……家のないロボットに、わたしたちのきもちなんか」
「それも……そのまま返すわ」
「え――」

 人魚さんは苦虫をかみつぶしたような表情をしました。きっと男の人のかたちをしたロボットさんも、マスクの中は同じ表情なんだと思います。
「『人間に――ロボットわたしたちの気持ちはわからない』」

 二人は同時に言いました。
 怒っているわけではなかったみたいです。
 淡々としていました。
 どういう意味なのか、わたしにはわかりません。

「これ以上の問答など無駄だ――行くぞ」
「そうね」
「待っ――」

 待って、とは言えませんでした。
 呼びかけたところで、なにを言えばいいのかすらわかりません。

 ふたりはそのままどこかへ行ってしまいました。行き場所は知りません。

 このあと、人魚さんたちを止める為にロックマンさんが動き出したという話を聞きました。
『人間に我々の気持ちはわからない』
 そうなのかもしれないな、と思います。なら、ロックマンさんになら人魚さんたちの気持ちがわかるんでしょうか?
 最近、よくそんなことを考えます。
 他の人は街をこわした人魚さんたちに怒りをあらわにしているけれど……簡単に、人魚さんたちを暴走と言ってしまうのは、なんだか違う気がしました。





2010/11/07:久遠晶
 雑記に上げようとして、普通にssになったのでこちらにUP。
 スプラッシュウーマンが空中に浮いてるのは、ボスラッシュの時に水のなかでなくても普通に浮いていたからです。でも実際受けるのかな。どうなんだろ。
 月と瓦礫をバックに浮き上がって槍に座るスプラッシュウーマンってすっごくキレイだと思います。すごく。