きみにしか言えない言葉


「どうして、ボクは生まれたんだろう。……よく、そう思う」

 未完成なのに――……と、タイムマンは呟いた。
 いつもは気丈なタイムマンが見せた、ほんのわずかのほころび。タイムマンの素。

「未完成なのが、イヤなの?」

 タイムマンはむっとした表情で静かに息を吐き出した。だけど否定の言葉はない。

「私は完成しきったものより、未完成のほうが好きだけどな」
「え?」
「だって成長の余地があるもの。わたしはもっと成長したいと思うけど、完成したいとは思わないな」
「……意味わかんない」
「まあ、ロボットだとそうかもね。でも、完成の余地があるって考えるとちょっと楽になれるよ。考えてみてよ、エレキマンなんてあれで完成形だよ?」
「アイツは……博士の最高傑作……」
「性能はねー。でも、あの性格だよ?」
「う……」

 タイムマンはうげえ、と表情をゆがめた。

「ロボットも人間も、どこかしら欠点があって当たり前じゃないかなあ。というか欠点はないとダメだよ。補い合って生きてるのがわたしたちなんだから。
 タイムマンにだって、今の時点でタイムマンにしかできないこと言えないこと、たくさんあるはずだよ」
「……時間旅行用に作られたボクに、それ以外の価値なんてものがあるんだろうか。
 そういえば、博士はどうしてボクらを人間そっくりに作ったんだろう。乗り物のほうが効率的じゃないかな」
「そ、それは私にはよくわかんないなぁ。人は自分の姿に似ているものに親近感を抱くから……そういうことなのかなぁ」
「そうか、人間ってナルシストなんだな」
「なるほど……それは確かにキミにしか言えない言葉だね」

 思わず苦笑した。
 タイムマンは納得したのか、気が晴れた表情をしたので、それ以上言葉をかけることはやめた。
 ロボットを人間そっくりにつくる人間はナルシスト。
 だとするならタイムマンを見てどきどきを抑える自分は、ナルシストになってしまうのだろうか。
 考え込みそうなってしまって、首を振った。
 ナルシストだと言われたときの返答は、告白した時に考えればいいのだ。
 ……まだ当分先になりそうだけども。





2017/04/09:久遠晶

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