がんばれ新開くん

「なぁ、ズバリ聞くけど……おめさんってどういう男が好きなんだ?」

 ズバリ聞かれた私は、ぎょっとして新開の顔を注視してしまった。
 居心地悪そうにくちびるを引き結ぶ新開の頬はちょっとだけ赤い。

「し、質実剛健な男かなぁ……」
「寿一みたいなやつかぁ~」

 新開はまいった~と言いたげにがっくりとうなだれた。
 その拍子に食べかけのパンケーキの皿がカタリと揺れる。

「なに、新開好きなやつ居んの。私は参考にゃあならないよ」
「うーん、相談乗ってほしくてさ」
「当たって砕けろ。以上」
「相変わらず冷たいなぁ」

 相変わらずってなんだよ。
 新開はため息まじりに、パンケーキにフォークをぐさりと刺した。大きな塊を口のなかに放り込むと、もぐもぐと咀嚼しはじめる。
 黙っていればかっこいいのに、食べ方がちょっと豪快なんだよな。
 自転車に一途で、誰にでも優しい。その分、特定の子に興味がある風ではなかった。

「新開のハートを射止めた子って、誰? 同じクラス? 興味あるな」
「面白がらないでくれよ、結構真剣なんだ」
「わざわざ相談するってこたぁ新開ファンじゃないんだ? もったいないね~あの子たち、二股されても喜びそうなもんなのに」
「やめろって」

 これ以上からかうと本格的に怒られそうなので黙る。
 新開はオレンジジュースに口を飲み干して、はぁ、とため息をついた。

「単なる友達だと思ってたんだけどさ、付き合いやすいし、たまに二人で遊んでるうちにどんどん好きになって……」

 ポツポツと話しはじめる新開の頬が赤い。はっきり言ってちょっと気持ち悪いが、同時に妙な関心も沸き起こった。
 食欲と自転車のことばかりな友人も、こうして色恋に心をときめかせることもあるのだ。当然なのかもしれないが、それはちょっとした驚きだった。

「よっぽどいい女なんだなぁその子」
「……ああ。ずっと、俺を応援してくれてた」

 噛み締めるように言う新開に、こちらも嬉しくなった。
 去年の初夏、新開は一度自転車を挫折した。私は単なる友人だったけれど、一度は選ばれたインターハイを辞退する新開には驚いた。
 本人が決めたことならどうこう言うことじゃない、と私は静観を決め込んでいたけれど――新開がまた自転車に乗り始めたときには私もすごく嬉しかった。
 新開が挫折を乗り越えた背景に、名も知らぬ女の子がいるのなら。私も礼を言いたい気分だ。

「応援してるよ、新開。お前なら楽勝だよ、がんばれ」
「それが頑張ってアプローチしてるつもりなんだけど、全然響かないんだよ」
「まぁ、まずは私と二人で出歩くのをやめるとこからはじめた方がいいんじゃない。誤解されたら大変だ」
「……はぁ。いや、そうなんだろうけどさ……」

 新開は頭を抱えた。よっぽどその子にお熱らしい。

「もっとどっしり構えてろよ~新開だったらイチコロだって。好きだ! って言いながらキスのひとつでもぶちかましてやればいいんだよ」
「他人事だと思ってるだろおめさん。ぜったい」
「自分のことのように応援してるって」
「信じられないなぁ」

 新開は言いながらパンケーキの最後のひときれを口に含んだ。
 オレンジジュースを飲み干し、ウェイトレスさんに追加のケーキを注文する。
 恋はしてても食欲はそのままらしい。新開のこういうところ、結構好きだったりする。
 新開の恋の成就は願いたいけれど、この関係がなくなるのは少し寂しいなぁとぼんやりおもった。





2016/11/18:久遠晶