小夜嵐

夢絵・漫画

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 この男は、愚直なまでに己を曲げない。常に矛盾なく、一貫した態度を貫く。
 どうにかならないだろうか。

「寒くはないか、レディ」
「構いません、平気です。平気だからそのマントはあなたが使ってください」

 マントをはずし、私へ渡そうとするエドガー様を制止する。
 女に声をかけるのは礼儀でありマナーだと言ってはばからないエドガー様は、私のような下賤の者にまでレディファーストを貫く。
 フィガロの民が辟易しているであろうその性分も、貫けば信念だ。
 どうかその信念の対象から、私だけは除外してほしい。
 リターナーとして対等の仲間付き合いをしているとはいえ、やはり立場と身分が違うのだから。

 舞い落ちる雪に肩を震わせると、エドガー様も鼻水をすすりながら苦笑した。

「その格好では風邪を引くだろう」
「あなたが風邪を引くよりはマシです」
「私がフィガロ王だからか」
「あなたはバナン様と同じく、我々のブレインです。手足は替えがきくが頭は替えがきかない」
「きみの美しさも替えがきかないと思うが」
「……あなたという人は」

 苦虫を噛み潰したような表情になってしまう。エドガー様は肩をすくめた。

「じゃあ、こうしよう。来なさい」
「なんでしょう」

 促されるままそばに寄る。
 エドガー様はニヤリと笑うと、私の手を引いた。バランスが崩れてその体にもたれこむ。

「これならお互い寒くないだろ」

 私をマントで包みながらエドガー様は笑った。
 いたずらが成功した子供のように。

「勘弁してください」
「いーやーだ」

 頭が痛くなる。
 礼を尽くす相手から心底除外してほしいと思う。
 それは要するに――礼儀だからではなく恋人として、愛してほしいという意味なのだけど。




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