今後とも精進します



 DIOとの戦いが終わった。激動の50日間は終わりを告げ、私は日本に帰国して日常へと戻った。
 学校に行って、授業を受けて、友達と話して、バイトをして――そんな普通の毎日。待ち侘びた世界は、だけど不思議と色褪せて見える。
 大好きなひとがどこにもいないから。

「……あーあ」

 夜、机の上に置いた手紙を見つめながら、ため息をつく。
 フランスに帰国したポルナレフとは手紙や電話で連絡を取り合っているが、どうしても物足りない。
 彼の声を聞くたびに嬉しくなるし、手紙を読むたびにドキドキする。それでも、どこかで「この関係は恋人と言えるんだろうか?」と不安になってしまう自分がいる。
 こうなって来ると、決戦前夜――当たって砕けるつもりで告白したあの夜。『恋人同士の誓いのキス』を求められた時、恥ずかしさで断ってしまったのが悔やまれる。
 DIOを倒したあと、怪我が治るまではエジプトで療養していた。けれど、ほんのわずかな期間だったこともあり、ポルナレフとの関係はまだ『仲間』という意識のままだった。ポルナレフの恋人になれた、と浮かれたあの日が嘘のように思える。
 彼の笑顔が、今はもう遠すぎて。

「……会いたいな」

 ぽつりと呟いた言葉は、誰にも届かず、夜の静寂に溶けていった。彼女は大きくため息をつき、ガックリとうなだれた。

 そんな寂しさを抱えたある日の学校帰りのことだった。
「Mademoiselle?」 と背後から声をかけられた。反射的に振り向くと、キャリーカートを引いたサングラスの男性が立っていた。
 背が高く、鍛え上げた筋肉を惜しげもなく晒す外国人旅行者だ。逆立てた髪に見覚えがある。

「えっ……」

 戸惑う間に旅行者は何かをに問いかけた。しかし知らない国の言葉なので、には理解できない。咄嗟に交番を探して周囲を見渡すと、旅行者が腰を折るようにして顔を近づけてきた。

「日本語なら伝わるか?」
「えっ……あ、」

 戸惑いつつ頷くと、旅行者はクッと吹き出した。

「おいおい、いい加減気づけよ! 恋人が会いに来てんだからよ」

 サングラスをチラリと下にずらし、茶目っ気たっぷりの瞳でを見つめる旅行者に、の淡い期待が確信に変わった。

「ポルナレフさん!」
「よ!」
「な、なんで!? なんで日本いるの!?」
「そりゃあ、会いたかったからに決まってんだろ」
「えっ、承太郎くんたちに?」
「……おまえなぁ」

 サングラスを外したポルナレフが、呆れたように眉をへし曲げた。
 夕方の街は人通りが多く、制服姿の学生や仕事帰りの会社員が行き交っている。そんな中で、キャリーカートを片手に堂々と立つポルナレフの姿はひどく目立っていた。

「オレはこ、い、び、とに、会いにきたに決まってるだろーが」

 ずびしとを指差しながらポルナレフが率直な言葉を口にする。は照れてしまって視線をさまよわせた。

「そっか、そうですね、えへへ……わたし、ポルナレフさんの恋人なのか」
「おいおい、遠距離だからってオレのこと忘れんなよ。それともやっぱ日本人の男のほうがいいのか? オレのことは気の迷いだって? 泣けちまうなぁ……」

 冗談めかして人差し指を突き合わせる仕草をするポルナレフに、は慌てて首を振る。
「そんなことないですっ! 一日だってポルナレフさんを忘れたことなんてありませんよ! 昨晩だって寝る前――」
 挽回しようとし、要らぬことまで言っていると気づいて言葉を詰まらせる。だがニヤリと笑ったポルナレフがそのまま許すはずもない。

「へえ? 寝る前まで考えてくれてたのか。うれしいねぇ」
「うっ、う?……! からかってる……!」
「そりゃあ、こんなかわいい子をからかうなってのが無理な話だ」

 ポルナレフはカラカラ笑いながらさらりと言うが、にとってはスタープラチナの右ストレートを喰らったに等しい。直球で受け止めてしまったは、熱くなる頬を自覚して高校の制服の胸元を仰いだ。
 歩道で話し込んでいるのもなんだ。とポルナレフはとりあえず通行の邪魔にならない位置に移動する。

「あの……会えてうれしいです、本当に。盆と正月がいっぺんに来た気分。どーしよ、ちょっと泣きそうです。あはは」
「うん、よかった。……でもおまえは会えただけで嬉しいかもしれないけどよ、オレはちょっと足りないんだよな?」
「へっ?」

 ポルナレフはニッと笑い、両手を広げた。その仕草の意味がわからず、とりあえずも両手を広げる。すると、ポルナレフが愛おしそうに目を細めた。その表情にどきっと心臓が跳ねた瞬間。
 彼は一歩距離を詰め、広げた両手でを絡め取った。
 ぎゅっと抱きしめられて、心臓が止まりそうになる。
 ポルナレフの体温がじわりと伝わってきて、彼の纏うほのかな香水の香りが鼻をくすぐる。こんなふうに包み込まれるのは初めてで、はどうすればいいのかわからなかった。

「はー……おまえってマジでちっちゃいんだな。スタンド使いとは言え、色々心配になるぜ……」

 ――なに、な、な、な、な、なにがおきてるのっ!?
 感慨深そうに溜息を吐くポルナレフに、何も反応ができない。硬直して動けないでいると、大きくて暖かい手のひらが労るように彼女の背を撫でる。内心叫び出しそうになっていると、もぞりとポルナレフがわずかに身を離した。

「……抱き締め返してくんねぇの?」

 大柄な体躯に似合わない、不器用に拗ねた声が耳元で響く。
 唇をむすっと尖らせる姿も含めて、まるで子供が構ってほしがるような、ちょっとした寂しさが見え隠れする。
 ――そんなこと、言われても。
 ポルナレフの囁きに、は全身が固まる。
 頭が真っ白になって動けない。

「なぁんだ、オレが恋しくて泣いてるかと思ったのによ」

 ポルナレフはわざとらしく大げさにため息をつき、ゆっくり腕の力を緩める。離れていく体温に、は思わず彼の手を掴んでいた。
 ポルナレフは少し驚いてから、満足そうに笑った。

「……くくっ、ま、今回はそれで勘弁してやるか!」
「ああ、すみません、精進します……」
「ったく、照れすぎだろ。かわいいなぁ……」

 大きな手がの頭を優しく撫でる。兄が妹にする仕草。だけどそこに男女の愛情があることを、は知っている。面映くて、は俯いた。赤い顔を隠そうとしても、耳まで赤いのできっとポルナレフにはバレていると、わかってはいたが。


   ***


 手を繋いで歩き出す。歩幅をに合わせる彼の体温に、じわじわと彼が居る実感が湧き上がってきた。
 ――ほんとに、私に会いたくて来てくれたのかな。
 正直、決戦前夜に告白した時は告白を受け入れてもらえるなんて思っていなかった。彼は切実な思いをちゃかすような性格では断じてないが、まさか女性として意識してもらえているとは全く思っていなかったので、彼から受ける『恋人扱い』にはたじろぐばかりだ。
 ――私、ポルナレフさんの恋人になったんだなぁ……。
 思わず繋いだ手を握り直すと、ポルナレフがぎゅうっと握り込んできた。思わず顔を上げると、優しい微笑みと目が合った。
 見てはいけないものを見てしまった気がして、慌てて前を向く。

「どうした?」

 くつくつ笑う声。彼はの動揺を完全に把握しているらしい。
「いっ、いえ、ポルナレフさん今日どこに泊まるのかなぁって」
「お前んちに決まってるだろ? 恋人同士なんだから」
「むむむむ無理に決まってるでしょう!!」
「やっぱり? じゃあ承太郎んちかな、ホリィさんにも会いたいしな」
「か、か、からかってぇ……!」
「ははは、わるいわるい。反応が面白くってついな」
「もうしらないっ」

 ぷいと顔を逸らしはするが、手を離す気にはなれない。繋いだままでいると、やはりポルナレフが笑う気配がする。

「……泊まる場所はどうにかするからよ、明日予定ないよな? デートしようぜ、デート」
「えっ」
「日本を案内してくれよ。な、いいだろ? ほら決まり!」

 ポルナレフの軽やかな宣言に、思わず足が止まりそうになる。
 ――デート……? ポルナレフさんと、デート……?
 あまりに自分に馴染みのないな響きに、心臓が跳ねる。がぎこちなく彼を見上げると、ポルナレフはいたずらっぽく笑って――。
「楽しみだなぁ、日本のデートってやつ」
 そう言って、繋いだ手を優しく引いた。


   ***


 ポルナレフさん、ポルナレフさん。聞いてください、あのね――。
 そんなふうに名前を呼んで、後ろを付いてくる子がいたら、そりゃあ満更でもないに決まってる。と、ポルナレフは思う。
 はかわいいし、気がきくし、スタンド使いとして頼れる仲間でもある。あちらは年の離れた男性に『兄』を感じてるだけなのはわかっていたし、女好きのポルナレフと言えど下心はなかった。

 はポルナレフにとっては純粋すぎた。彼女を見ていると、死んだ最愛の妹、シェリーを思い出す。シェリーと性格も顔立ちも似ては似つかないが、ポルナレフの名を呼びながら辺りをちょろちょろして構って欲しそうにするところはそっくりだ。
 とはいえ、にとってポルナレフが『兄のようなもの』だけではないことも、ポルナレフはわかっていた。
 彼女はポルナレフがちょっと頭を撫でるとすぐ顔を赤くして、嬉しそうに笑う。照れているのをごまかしているつもりなのがたまらなくかわいいと思う。自分が口説いたり抱き寄せたらどういう反応をするのだろうと思っては、ポルナレフはいつも自制した。愛らしい乙女心を悪戯心だけでからかうのはとてもよくない行いだ。

「見てください、露店で釘付けになってたら花京院くんが買ってくれたんですよ~」

 土産物のブレスレットを嬉しそうにはめたが、真っ先にポルナレフに見せてくる。ポルナレフに褒められたくて仕方ないという顔をして。

「おっ、似合ってるぜ。よかったな、買ってもらえて」
「えへ。うれし~」

 ポルナレフが素直に言葉にすると、も嬉しそうにはにかんだ。大切そうにブレスレットを撫でる。
 ポルナレフはを恋愛対象から除外していた。
 目の前で他の男からのプレゼントを見せびらかされることにも、なんとも思わない。同時に、ここでヤキモキするようになったら、それは『そういう』ことなのだろうと思っていた。
 結局この兄としてのポジションが居心地いいのだ。そう思っていた。あの夜までは。

 ――わたし、ポルナレフさんが好き。

 エジプト、決戦前夜――。夜の広場に呼び出したが上擦った声でそう言った。頬を染めて、言葉を噛みそうになりながら、必死の様子で思いを口にするに、ポルナレフはあっけなく心を撃ち抜かれた。
 元より信頼していた仲間だ。誠実で心優しい人となり早く知っている。かなり漏れてはいたが胸に秘めていた気持ちを曝け出してくれるのなら、ポルナレフに断る理由はなかった。
 ポルナレフが気持ちを受け入れるとは困惑しながらも喜んだ。告白してきたのはの方なのに、『付き合いたいとか大それたことは考えない』とか年の差だのを気にする様子に、ポルナレフは微笑んだものだ。
 恋愛慣れしておらず、かなり奥手らしい彼女は繋いだ手に口付けするだけでも顔を真っ赤にさせて俯いてしまう。そのウブさには困ったが、それ以上に『可愛い』と思った。
 彼女をずっと見ていたいと思った。
 だからきっと、だいぶ前からポルナレフも彼女に惹かれていたのだろう。ただ、今は亡き妹のようにポルナレフを慕う彼女を裏切らないと、自制していただけで。

 もちろん、恋人になってからもその気持ちは続いている。の感情には年上に対する憧憬や期待も少なからずあるはずだ。スマートにエスコートし、彼女が勇気を出せるようになるまでスキンシップは控えめに。『待てる男』で居なくてはならない。
 そう思っていたのだが。
 サプライズで日本に渡り、と再会したとき。ポルナレフの考えは脆くも崩れ去った。
 顔を赤くして嬉しそうに彼女が可愛くて、言葉尻を捉えてからかってしまったし、もっと動揺させたくて結局抱き締めてしまった。
 腕の中にすっぽり収まる身体は柔らかく、かすかに甘い香りがした。

 ――やべえ。マジで好きになってるな。

 硬直して抱き締め返してくれないのが寂しくてふてくされると、は恥ずかしそうにポルナレフの手を掴んだ。羞恥心の中で突き動かされた、という仕草が愛らしく、ポルナレフは先へ先へと進みたい気持ちを堪えた。
 ――待つって言ったのはオレだしな。がっついて嫌われたくねーし。
 それでもしっかりデートの約束をねじ込むのは忘れない。
 準備期間もないので、ポルナレフはが普段使っているレストランや喫茶店で過ごしたり、彼女が育った街並みを共に歩けるだけで充分だった――のだが。
 なかなかどうして。




「ポルナレフさん、ここが日本の重要文化財の神社です」
「へぇ?」

 ポルナレフの二歩先を先導しながら、が神社について簡単に説明する。それから、文化財に登録された歴史的背景を語った。
 ――思ってた以上にしっかり観光案内してくれんのな。
 鳥居の端をくぐりながら、を見つめる。暗記してきたらしく解説は淀みない。
 一晩の間でかなり勉強して来てくれたらしい。プレッシャーをかけてしまったかとほんの少しの罪悪感と、彼女なりにポルナレフを楽しませようとしてくれていることへの嬉しさが湧き上がる。
 だが。
 だが。

 ――コレ、単なる観光で一日終わるんじゃあねえか?

 ポルナレフは観光がしたいのではなく、あくまでとデートがしたいのだ。もちろん観光名所巡りがデートでないとは言わないし、楽しくはあるが、会えなかった時間を埋める為にもっとに近づきたい。それも本心だ。
 ――だいたい観光地巡りって、エジプトまでの旅でいろんな国でやってたしなぁ。
 ――もちろん、祖国の案内は重要だけどよ。
 ポルナレフもがフランスに来たら、愛しい祖国を好きになってもらいたいと張り切るだろう。
 その気持ちはよくわかるし準備してくれた喜びもあるから、観光は切り上げたいと言うのも提案しづらい。

「えっと、それでね、なんだっけな……むむ……」
「無理すんなって、ガイドさん。ほら、一緒に『お参り』しようぜ」

 建築様式について語っていたの言葉が途切れる。苦笑し、ポルナレフは先を促した。が安堵したように笑う。
 ――まあ、こいつがしたいようにするのが一番か。
 そう思った時――ポルナレフは横から声をかけられた。

「ねえそこの人、写真撮ってくれませんか?」

 フランス語だった。見ればポルナレフと同じく、外国人旅行客の女性だ。

「ああ、いいぜ! とびきり綺麗に撮ってやるよ」

 差し出されたカメラを受け取り、ポルナレフが笑う。寄りで一枚、引きで一枚。綺麗な足がより美しく写るよう、やや煽り気味にカメラを傾けるのも忘れない。

「ありがとう!」
「いいってことよ」

 普段であればこのままナンパに移行するところだが、もちろん今はしない。ポルナレフは軽薄な男ではあるが、相手を決めたら迷わない愛の深さと誠実さがある。という恋人ができた今、ナンパという発想はついぞ浮かばなかった。
 だから、旅行客にカメラを返して別れ、のところに戻った時――彼女がふてくされている理由がわからなかった。

「……どうした? 待たせすぎちまったか?」
「そうじゃないけど……」
「じゃあどうした?」
「綺麗な人だったなって!」
「? そうだな、美人だったな」
「……」

 何気無い肯定にが余計にむすっと唇を尖らせる。その仕草でやっと気づく。
 ――へぇ、ヤキモチか?
 の拗ねた顔を見て、ポルナレフはにやりと口の端を吊り上げた。

「おいおい、おまえ、まさかこんなことで拗ねてんのか?」
「こんなことでって、なんですか!」
「だってよぉ、オレの目の前で堂々と花京院からもらったアクセサリー自慢してたのは、どこの誰だったっけなぁ?」
「……! そ、それは……! だって、付き合う前、だし……」

 痛いところを突かれてがたじろいだ。今日も身につけているブレスレットを撫でる仕草が、困りようを表している。
 花京院がブレスレットを買ったのはたまたまで、お互いに他意はないことはわかっている。露店でアクセサリーに釘付けになっているがいて、花京院には手持ちの金があった。だから代わりに買ってやり、安かったから代金は構わないよと言った。その程度のことだろう。
 そしては、気に入ったアクセサリーに『人からもらった』というエピソードが付随し、より大事にしている。その程度のことなのはわかっている。
 今引き合いに出したのも、をからかいたくてのことだ。特に他意はなかったはずなのに、これまで全く気にならなかったブレスレットの存在が妙に気になる。

 ――せっかくなら、毎朝オレのことも思い出して欲しいよな。

 寝る前だけではなく、朝起きてアクセサリーを身につける時に。ふとした瞬間に、ポルナレフを思い出してほしい。

「なぁ、お参りが終わったらアクセサリーショップ行かねえ? オレもおまえになんかプレゼントしたい」

 気まずそうに視線を逸らしていたが顔を上げる。

「あ、そのブレスレットは大事にしろよ。花京院からもらったやつなんだから」
「えっ、いいの?」
「だっておまえ、別に花京院のことはなんとも思ってねーだろ?」

 その問いに、はこくこくうなずいた。
 ポルナレフはその反応に「だろ?」と返したあと、ふと気づく。
 おまえになんかプレゼントしたい、だなんてまるで本物の恋人同士みたいな言葉だ。
 いや、本物の恋人なのだから当然だ。だが、そうではなくて――。

 ――俺、こんなにこいつのこと気にしてたっけ?

 ブレスレットがどうとか、花京院がどうとか、そういう話ではない。ただが自分のことを 『遠くの人間』ではなく、『そばにいる男』として意識してほしい――そう思った自分に気づいてしまった。

「アクセサリー、ポルナレフさんが選んでくれるの……?」

 おずおずと問いかけるを見下ろしながら、ポルナレフは笑う。

「当たり前だろ? どうせなら、オレのことを毎日思い出してくれるもんにしたいしな」

 ふっと口をついて出た言葉は独占欲めいていた。ポルナレフは自分で少し驚きを見やった。
 彼女はポルナレフの言葉を悪いようには受け取らなかったようで、驚きつつも照れくさそうに笑った。

「今も毎日思い出してますよー」
「本当かぁ? 恋人に話しかけられても気づかなかったくせに」
「それはサングラスかけてたし、まさか来るとは思ってなかったから!」

 ――やっぱり、可愛いんだよな。
 ポルナレフは改めての感想に苦笑する。

「じゃ、決まりだな! しっかり似合うヤツ選んでやるから、期待しとけよ」

 彼もまたはにかんで、の手を引いた。
 どこか緊張している彼女の様子に、ポルナレフは思わず苦笑する。
 ただ新しくできた恋人にアクセサリーを買ってもらうだけだ。だがにとってはきっとそれ以上の意味を持つのだろう。恋愛経験はあまりないと言っていた。奥手っぷりを見ると、ポルナレフがはじめての恋人であることは自明だ。

 ――全部、オレがの『ハジメテ』になるのか。

 そう思うと責任重大だ。ポルナレフの胸の奥が、少しくすぐったくなった。
 神社の参拝を済ませ、境内の階段を降りていく。隣を歩くがしみじみとつぶやいた。

「ポルナレフさんが日本に来てくれて良かったな」
「オレも日本来て良かったよ。なあ、アクセサリーショップのあとはもっとデートっぽいことしようぜ。観光も楽しいけどよ、おまえの普段過ごしてる場所とか行ってみたいな」

 ポルナレフがそう言うと、が目をぱちくりさせる。こういう何気ない仕草が愛おしいのだ。
 まだ彼女のことを、シェリーのような妹的な存在として考えてしまう時はある。だが間違いなく、恋人としてのの比重は大きくなっている。
 ――こいつにオレのアクセサリー選んでもらうのもいいかもしれないな。
 互いへの愛情をじっくり育てる、そういう二人になりたい。口に出すとは絶対恥ずかしがるので口には出さないが。
 口に出したところでは逃げないと、わかっていたのだが。





2025/02/23:久遠晶

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