雨間から差し込む光2



「……っていう夢を見たのよ」

 おはぎを食べながら操が言う。

「へえ」
「ほう」
「そうですか」
「お前、どうでもいいことばっか覚えてるよなぁ」

 最近葵屋に帰ってきた面々は、一様に興味なさげな反応をしている。
 顎に手をやりながらも式尉の言葉に操は眉を吊り上げる。

「どうでもいことじゃないよ! 四の漢字を間違って教えられたとき、私本当に恥ずかしかったんだから」
「恥じらいがあるなら、その足隠したらどうだよ。若い女がみっともねぇ」
「いやあべし見、これはこれで」
「ひょっとこてめぇ、童女趣味でもあんのかよ」
「……みんな、気にしてることぐさぐさ言うね」

 ぺったんこな胸を気にしながら操は言う。
 彼らのあんまりな発言に、怒る気力もないようだ。

「お前は昔っからくだんねー夢ばっか見てたよなァ」

 茶を飲みながらべし見が言う。

「そうだっけ?」
「そうだぜ。やれ、御頭と結婚する夢見ただのなんだの……」
「昔の私、いい夢見てたんだなぁ」
「これだぜ」
「あ、ひっどーい!」

 これ見よがし式尉が肩をすくめる。
 操は思わず身を乗り出した。

「式尉さん、そう酷いこと言わないの。操ちゃんだって恋する女の子なんですから」
「増髪さん」

 新しい和菓子を机に置きながら増髪が苦笑する。

「久しぶりに会って、からかいたい気持ちもわかりますけど……ね」
「別に、そういう訳じゃ―――」
「ふふ、照れてる」
「照れてねぇ!」

 くすくすと笑う増髪に式尉がわずかに頬を紅潮させる。いいようにあしらわれている、といったところか。
 ほとんど十年ぶりに等しい再会だというのに、距離を測れずにいるのは自分達だけらしい。葵屋の面々はかつてと変わらず親しげに接してくる。
 それが申し訳なくもあり、ありがたくもあり―――。

「ま、可愛い子ほどいじめたい……はほどほどにお願いしますよ。私たちの子はじゃじゃ馬なんですから」

 式尉の弁解に聞く耳持たず、増髪は四人に向かって言う。そのまま、部屋を出て行った。なにやら仲間達の視線も笑っている。
 居心地悪げに顎に手をやり、式尉は苦し紛れに操を指差した。

「……可愛いほどいじめたい、って、可愛いか、こいつ?」
「式尉さんっひどーい!」

 唇を尖らせて、操は笑う。

「もう、せっかく謝ろうと思ってたのに」
「あ?」
「子供のころ。散々心配かけさせたなぁ―――ってさ」

 ―――木にのぼって降りられなくなったり、色々やらかしたなぁ、本当。
 操は当時を思い出して苦笑する。

「これからも迷惑はかけると思うけど、心配はさせないから。改めてよろしくね」

 にっこり笑って、操は式尉たちに手を差し出す。屈託のない瞳。

 ―――かなわねぇな、この目には。

 困ったように笑いながら、式尉は四人を代表して操の小さな、しかし夢の詰まった手を握り締めた。





2011/02/3:久遠晶
 ここまで読んでくださってありがとうございました!